本展では、女性の「美しさ」を問い続けてきた伊島の一つの答えである作品「あなたは美しい」(2013年)と、「人の生と死とは?」という答えのない問いを形にした「一つの太陽」のシリーズを展示する。

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伊島薫論

「あなたは美しい」そして「ONE SUN」

仲野泰生

伊島薫は、「美とは何か」を問い続ける作家である。伊島は広告写真の第一人者として活躍する一方で、1980年代より作品制作を始めた。発表された作品は、常に話題になり、私たちの「美と醜の既成の価値基準」に揺さぶりをかけ続けることになる。彼の作品は常に問いかける「あなたが美しいと思っているものは、本当に美しいですか?」と。

沖縄の方言に「ちゅらかさ」という言葉がある。「ちゅら」は美しいという意味で、「かさ」は瘡蓋(かさぶた)という意味だ。一つの言葉に相反する意味が入っている沖縄の美意識を反映した言葉である。伊島の作品は正に「ちゅらかさ」ではないだろうか。例えば、「新美人論Ⅰ 伊島薫×桐島かれん」(1993年 光琳社)は、様々なストッキングを顔に被り、モデルである桐島かれんの様々な表情を、顔を、写した作品である。美しいハーフのモデルの顔にストッキングを被せて、引っ張ったり、引き裂いたり。顔とストッキングの面白い表情を作る実験のようである。その顔を見ていると私たちの「美醜の基準」は揺さぶられるのだ。続く1995年の「新美人論Ⅱ カラード・ビューティ 伊島薫×高野雅子」(光琳社)や2000年からの「死体のある風景」シリーズも、同様に「美の価値基準」を問う仕事だろう。

風景の中に死体に扮した女性を置くことで、風景が変容していく。女性も風景の一部になりそうでならない。風景に対峙する女体としての物体。伊島にとって、風景・自然は女性と等価なのかもしれない。

そして2013年「あなたは美しい」が生まれる。10mを超える巨大な裸婦像。まるで風景だ。女性の、あるいは人体の「美しさ」を問い続けてきた伊島の一つの答えとして、この作品は誕生した。

ところで、1911年思想家でフェミニストの平塚らいてうは、月刊誌『青鞜』発刊の辞で、「元始、女性は実に太陽だった。真正の人であった」と述べている。太古の昔から女性を崇拝する母系社会の共同体は、世界にいくつもあった。例えば、沖縄、メキシコ、アフリカなどなど。また、同様に原始共同体の社会では太陽を神として拝むことが多いようだ。

伊島は、「あなたは美しい」の前に、2009年から「One Sun」シリーズを始めた。太陽はあらゆる生命の源である。そして、人間は女性から生まれる。そんな太古の昔からの真理に、伊島は突然、「死と生」を考える中で向き合ったのかもしれない。様々な土地で、魚眼レンズで撮影された太陽の軌跡。青い円・空の中の光・太陽。それは禅僧が描く「円相」のようだ。「死と生」を問い続ける答えのない問いを、この「One Sun」シリーズは観る者に問いかけているようだ。人間にとっての「美とは何か」、そして「死と生」のことを伊島は写真という媒体で問い続けている。

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伊島薫

1954年京都生まれ 。国内外で多数の展覧会、及び多数の美術館にコレクションされる。1980年代、様々なミュージシャンの撮影からスタートし、数多くのファッション誌の仕事を経て、広告写真の第一人者として活躍。その後、現在伝説とも言われる実験的なファッション誌「ジャップ」を創刊。死体にハイブランドを着せるという「死体のある風景」シリーズが高い評価を受け、以降ドイツを中心に欧米各地で個展が開催されている。国内では、2012年の豊田市美術館「カルペ ・ディエム」展のメインビジュアルとしても起用され、約2万人を動員し各方面で話題を呼んだ。

<代表的な個展>

1977年 「It’s a Beautiful Day」東京 銀座 ニコンサロン

1984年 「Pigmo」東京 デザイナーズ スペース

1995年 「Colored Beauty」福岡 ソラリア プラザ Zephyr

2000年 「死体のある20の風景」東京 ヒルサイドフォーラム

2009年 「一つの太陽 one Sun」東京 BLD Gallery

2013年 「あなたは美しい」 東京 AI KOWADA GALLERY

<アートフェア>

1999年 「越後妻有アート・トリエンナーレ、新潟

2004年 「Paris Photo」パリ、フランス