様々な顔を持つ塩澤文男。塩澤は絵を描きたいときに絵を描き、ドラムを叩きたいときに叩き、彼が作り出す作品や音楽は、彼自身の身体と知性と密接に絡んでいるのです。塩澤の身体の律動から生まれる作品は、彼のアフォリズム・警句であり、思考の礫でもあります。リズムというと誰もが音楽や踊りや運動の一要素だと考えます。しかし、リズムは思考であり、知性でもあるのです。

本展は、塩澤(ワイルド・アインシュタイン)の「身体からの野生の思考」によって生まれた代表作を展示します。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

塩澤文男論

「身体の中の野生の思考」

仲野泰生

 岡本太郎は言った。「縄文人は踊りたいときに、踊り。歌いたいときに、歌うのだ。人間はそのように生きてきた。」

高度資本主義で管理的社会である現在の日本において、岡本太郎が言う「人間」らしく生きるのは、難しい。この日本で、「人間」らしく生き抜いて行くためには、岡本太郎が嘗てそうだったように、多面的に生きること、そして瞬間、瞬間に生きていくしかないだろう。

1986年、当時アートディレクターだった塩澤文男は、雑誌の仕事で岡本太郎にインタビューを行い、多面体・岡本太郎に出会ったのである。そしてその時、塩澤は自分自身の多面性に改めて気づき、作品の制作を始めたという。

彼は絵を描きたいときに絵を描き、ドラムを叩きたいときに叩いた。自身の内奥の欲求に忠実な彼は、アフリカでパーカッションのレッスンを受ける。たぶん、彼はこのアフリカ体験で、自身の身体の深奥に眠る縄文的なリズムが呼び起されたのではないだろうか。リズムというと誰もが音楽や踊りや運動の一要素だと考える。ところが身体からのリズムは思考であり、知性でもあるのだ。塩澤の作品や音楽は、彼の身体と知性と密接に絡んでいる。だから、彼の身体の律動から生まれる作品は、彼のアフォリズム・警句であり、彼の思考の礫でもある。

特に、最新作の仏教を題材にした「釈尊 四天王 刮目大顔面図」は、塩澤の「身体の中の野生の思考」によって描いたといえるだろう。それは日蓮大聖人が、墨に心肝を染め「南無妙法蓮華経」という文字による曼荼羅を描いたように、塩澤も自身の心肝を染めるようにしてこの大作を描く。そして、この作品は彼の多面性の集大成であり、新たなる試みとなったのだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

塩澤文男

1955年生まれ。画家、アートディレクター、パーカッショニスト。多岐にわたる雑誌のアートディレクション経験の中、スタジオボイスの誌面にて岡本太郎氏にインタビューを行い衝撃を受け画業へと向かう。主な仕事に昭和天皇所緑の森「那須平成の森」オープニングディレクションと挿絵を担当。ジョン・レノンや、ローリングストーンズの写真集のデザインなど。荒木経惟、岡本太郎などの書籍プロデュース。近年では京都にある法華系の五本山に「釈迦と四天王」の巨画作成を手掛けている。絵本「海神の姫」は岡本敏子氏と共著。2007年に十二支物語絵本を全米で発売。画家パウル・クレーのプロダクトも手掛け、詩や言葉も担当する。神秘的でエネルギッシュな画風は多くのファンを惹きつけている。